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長い眠りから目覚めたら、全部忘れてた。
 
 
2019/10/07(月) 01:49 [001] PERMALINK COM(0)
 
手紙を捨てた。
10年間彼から届き続けた沢山の手紙。
何通あるのか数えたこともない。
いつも読むのに苦労するほどぎっしり書かれていた。

彼は時々、贈り物をくれた。
それにも必ず手紙が添えてあった。
とにかく手紙が好きな人だった。
そう、まるで彼の本体は文章であるかのように。


彼は今もどこかで手紙を書き続けているだろう。
私ではない女に。
そして私にしたように、贈り物をし、甘い言葉をささやき、くすぐるようにキスをするのだろう。
真っ白な紙の上で。


今でも思う。
彼は本当は真っ白な紙の束で、私はその紙の束を抱きしめていただけなのかもしれないと。
 
2018/12/09(日) 02:47 [001] PERMALINK COM(0)
 
「世界がさ」
「うん?」
「世界が割れたんだよね。だから、引っ越さなきゃいけないの」
 
受話器を耳と肩で挟んで会話をしながら、次々と荷物を箱に詰める。
電話の向こうの彼はパチパチと小さな音を立てていて、その合間に時々相槌を打つ。
 
「だから、次の街では、電話が使えるか分からないんだけど」
「うん」
「なにかあったら電話して」
 
 
パチパチ、という音が止まる。
しばらくの沈黙の後、彼が息を吐くように小さな声でささやいた。
 
「世界はまた再構築できると思う?」
 
私は動かしていた手を止め、受話器を持ちなおした。
 
「あるいはね。あなたの燃えてしまった世界も、きっと」
 
2018/09/26(水) 02:26 [001] PERMALINK COM(0)
 
私は4度、彼から逃げた。
そして4度、彼とよりを戻した。
 
いつも私は必ず宣戦布告をしてから逃げた。
そうすることが"けじめ"だと思ったのだ。
そして彼は必ず追いかけてきた。
行先で待ち伏せていたこともある。
そして彼はいつも悲しそうにこう言うのだ。
やっぱり君がいちばん大事だよ、と。


だけど少し時間が経つと彼は忘れる。
一度別れたことも、私が大事だと言ったことも。
私を手元に置いていると安心して、こっちを向くことすらしなくなるのだ。
 
 
4度目に捕まった時、彼は言った。
 
「今度こそ逃げていいよ」
 
もちろんそのつもりだった。
今度は足音ひとつ立てず、彼が後ろを向いて安心しきっているうちに。
私は息をひそめて、気付かれないように、そっと左足を後ろに引いた。
 
2018/06/25(月) 02:26 [001] PERMALINK COM(0)
 
十数年ぶりに、昔大好きだった女の子に再会した。
もう二度と会えないと思っていた彼女は、たった数キロメートルしか離れていない街で、
真夏の太陽のような柄のパラソルを売っていた。

「久しぶり。元気だった?」

パラソルを買うふりをして彼女に近づき、声をかける。
一瞬怪訝な顔をされたが、すぐに「ああ」と頷いてくれた。

「誰かと思ったわ。びっくりしちゃった」

そう言って口をもごもごさせながら、笑ってパラソルを畳み始める。
彼女は生まれて初めて好きになった女の子だった。
パンクロックが好きで、太陽が嫌いで、そばかすを気にしていた女の子。
赤茶色の短い髪とチラチラ光るグリーンのピアスが、世界中の何よりもキュートだった。


「君のショートヘアが大好きだったのに」

あの頃よりも暗いブラウンの腰まで伸びた髪を眺めながら、思わず呟く。
その瞬間、ガリッという音がして彼女の口の動きが止まった。
そして彼女は噛み砕いたキャンディと一緒に吐き捨てるように言った。

「だから伸ばしたのよ」
 
2018/05/26(土) 21:54 [003] PERMALINK COM(0)
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