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「世界がさ」
「うん?」
「世界が割れたんだよね。だから、引っ越さなきゃいけないの」
 
受話器を耳と肩で挟んで会話をしながら、次々と荷物を箱に詰める。
電話の向こうの彼はパチパチと小さな音を立てていて、その合間に時々相槌を打つ。
 
「だから、次の街では、電話が使えるか分からないんだけど」
「うん」
「なにかあったら電話して」
 
 
パチパチ、という音が止まる。
しばらくの沈黙の後、彼が息を吐くように小さな声でささやいた。
 
「世界はまた再構築できると思う?」
 
私は動かしていた手を止め、受話器を持ちなおした。
 
「あるいはね。あなたの燃えてしまった世界も、きっと」
 
2018/09/26(水) 02:26 [001] PERMALINK COM(0)
 
私は4度、彼から逃げた。
そして4度、彼とよりを戻した。
 
いつも私は必ず宣戦布告をしてから逃げた。
そうすることが"けじめ"だと思ったのだ。
そして彼は必ず追いかけてきた。
行先で待ち伏せていたこともある。
そして彼はいつも悲しそうにこう言うのだ。
やっぱり君がいちばん大事だよ、と。


だけど少し時間が経つと彼は忘れる。
一度別れたことも、私が大事だと言ったことも。
私を手元に置いていると安心して、こっちを向くことすらしなくなるのだ。
 
 
4度目に捕まった時、彼は言った。
 
「今度こそ逃げていいよ」
 
もちろんそのつもりだった。
今度は足音ひとつ立てず、彼が後ろを向いて安心しきっているうちに。
私は息をひそめて、気付かれないように、そっと左足を後ろに引いた。
 
2018/06/25(月) 02:26 [001] PERMALINK COM(0)
 
十数年ぶりに、昔大好きだった女の子に再会した。
もう二度と会えないと思っていた彼女は、たった数キロメートルしか離れていない街で、
真夏の太陽のような柄のパラソルを売っていた。

「久しぶり。元気だった?」

パラソルを買うふりをして彼女に近づき、声をかける。
一瞬怪訝な顔をされたが、すぐに「ああ」と頷いてくれた。

「誰かと思ったわ。びっくりしちゃった」

そう言って口をもごもごさせながら、笑ってパラソルを畳み始める。
彼女は生まれて初めて好きになった女の子だった。
パンクロックが好きで、太陽が嫌いで、そばかすを気にしていた女の子。
赤茶色の短い髪とチラチラ光るグリーンのピアスが、世界中の何よりもキュートだった。


「君のショートヘアが大好きだったのに」

あの頃よりも暗いブラウンの腰まで伸びた髪を眺めながら、思わず呟く。
その瞬間、ガリッという音がして彼女の口の動きが止まった。
そして彼女は噛み砕いたキャンディと一緒に吐き捨てるように言った。

「だから伸ばしたのよ」
 
2018/05/26(土) 21:54 [003] PERMALINK COM(0)
 
新しい季節が始まった。
私たちは昨日まで着ていたコートを脱ぎ、よく似たブーツを履いて花が咲く長い一本道を歩いた。


頭上からは雪のように白い花びらが降り注いでいる。
そのうちの何枚かを手のひらに受け止めた彼が、間抜けな顔で私に訊ねた。

「この花は何ていうの?」

私はふるふると首を振ってため息をついた。

「ねえダーリン、私が花の名前なんて分かる女だと思う?」
 
2018/04/03(火) 23:08 [001] PERMALINK COM(0)
 
使わなくなったカメラケースの中から、一枚の写真が出てきた。
何かを撮ろうとカメラのファインダーを覗いている彼の背中をこっそり盗み撮りした写真。
それはかつて「この人が好きでたまらない」と思いながらシャッターを押した一枚だった。


今でもこの日のことを鮮明に覚えている。
彼の誕生日。休館中の美術館。空車だらけのコインパーキング。
陸橋の上で、この背中を突き飛ばしたらどうなるだろうと考えたこと。


もちろん、私はそんなことはしなかった。
そして彼は一日中私に背中を見せたまま笑い続けていた。
私はこの日彼がどんな顔をしていたのか、まったく思い出せない。


「あなた、とうとう私のことなんて一度も見なかったわね」

写真の中で背を向けている彼にそう語りかけ、私は写真に火をつけた。
 
2018/03/12(月) 23:34 [001] PERMALINK COM(0)
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