週末のハンバーガー・ショップで、私達は数年ぶりに向かい合って食事をとっていた。
もっとも、オレンジジュースを一口啜るあいだ以外は一瞬たりとも止まない彼の話をBGMに、
冷めていくチーズバーガーをただ眺めることしかできない状況を”食事”と呼べればの話だけど。
 
一緒に頼んだジャガイモのチップスに油が回ってしなびてしまっても、まだ彼の話は続いていた。
彼は恍惚としながら昔の話を語っている。
ああ、昔話!
この世で一番、私がピクルスよりも嫌いなもの!

「ねえ」

黙っていれば永遠に続きそうな彼の話にうんざりしながら、
私は油まみれのチップスをつまんで口に放り込んだ。

「昔話ほど不毛なものってないと思う」
 
視線を上げて彼の反応をうかがった。
彼は黙ってコークのストローをくわえている。
私はもう一度、同じ言葉を繰り返した。
 
「昔話ほど不毛なものってないと思うわ、特にあなたみたいに話の長い人のは」
 
2017/10/05(木) 04:18 [001] PERMALINK COM(0) TB(0)
 
雪が降った。
 
真夜中の国道であなたが微笑んだ瞬間、雪が降りだした。
それはまるであなたが魔法をかけたようだった。
 
雪はどんどん積もっていく。
銀色に変わっていく夜の真ん中で、あなたが微笑んでいる。
あまりにも美しすぎて、私は思わず目を閉じた。
 
 
雪が降り積もる音が弱くなった気がした。
そっと目を開ける。
目を開けても、もうあなたはいなかった。
ようやく気づいた。
これは雪ではなく、私の想いが、祈りが雪のように降り積もっているのだと。
 
 
 
snowed
 
【例】It snowed 雪が降った
 
【形】だまされた
 
 
2017/09/16(土) 02:31 [002] PERMALINK COM(0) TB(0)
 
真夏のストリートを歩いていたら、サーフショップの前に彼が立っていた。
無視して通り過ぎようとすると、日焼けした腕が伸びてきて私の手をつかんだ。

「どうして会いに来てくれなかったの」

「行くわけないじゃない」

寝言を吐くのもいい加減にしろ、と思った。
しかしなお始末が悪いのは、彼がしっかりと起きているということだった。

「私が全部忘れて、水に流したとでも思ってるの?ウォータースライダーみたいに」

彼の視線がゆっくりと私の胸元に移動する。
そして彼は、うっとり目を閉じて頷いた。

「君のそういうところが本当に好きだよ」
 
2017/08/12(土) 04:15 [001] PERMALINK COM(0) TB(0)
 
「宇宙みたいでしょ」

水色のドリンクを飲みながらじっと私の指先を見つめる彼に話しかける。
私の爪は深い夜の色をしていて、その上に銀色の小さなラメがたくさん散りばめられていた。

「こないだは、夏の海だったね」

彼が言う。
私はしっかり頷く。
先月は、夏の海を爪に載せていた。
透きとおるように明るく薄いエメラルドブルー。
そして照りつけるオレンジ色の太陽。
私は、自然に起きることしか爪の上に載せない。

「雨が降らないかしら」

彼が怪訝な顔をして空を見上げる。
そういえばこの人は雨を嫌うのだったな、と思い出した。
だけどそれが何だと言うのだろう。
彼には、いつでも晴れた青空が広がる魔法の傘があるのに。

「雨が降ればいいのに」

彼がこちらに振り返る。
私は指先をぴんと伸ばし、彼に向かってひらひらと手を振った。

「もちろん、この爪の上で、ね」
 
2017/08/05(土) 18:28 [001] PERMALINK COM(0) TB(0)
 
お気に入りの下着の飾りレースが絡まって、ちぎった綿の破片のようになっていた。
私はため息をついて、その下着を普段着用のチェストの中に放り込んだ。


初めて一人旅をした日に着けていたのがこの下着だった。
ソーダキャンディみたいな水色にイチゴミルクのような水玉模様が散っていて、
左の胸元に大きめのリボン細工が施されている。
考えてみれば、今の私にはすこし子供っぽすぎるかもしれないデザインだった。
ちょうどいい頃合いだったのかもしれない。
このセンチメンタル・ソーダを初めて見せた相手にも、もう何年も会っていない。


そうして私はかつての"特別"に思いを馳せる。
"特別"が"特別"でなくなるのは悲しい。
しかたない。ずっとそのままではいられないのだ。

私はお気に入りの下着を入れていたボックスから、弾の入っていないモデルガンを取り出した。
そしてちぎれた綿菓子になってしまったセンチメンタルに向かって「バーン」と引金を引いた。
 
2017/08/03(木) 02:28 [001] PERMALINK COM(0) TB(0)