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とんでもない田舎に来てしまった。
バスは一日に一本、一番近い駅までは 60km もあり、もう何時間も車ひとつ通らない一本道の国道を歩き続けている。
いい加減歩き疲れていると、国道沿いにファミリーレストランが建っているのが見えた。
砂漠に水とはこのことだ。
私は迷うことなくドアを開け、店に入った。


時代遅れの古めかしい店内は、意外にも何組かの客がいて賑わっている。
空席はいくつかあるが、プレートに”店員がお席にご案内いたします”と書かれていたのでしばらく待つことにした。

「いらっしゃいませ」

やっと店員が現れた。
厨房から出てきたのは、うだつの上がらなそうな 40代くらいのウェイターだった。

「一名様ですか?」

ウェイターの問いに頷くと、窓際の一番奥の席に案内された。

「ご注文がお決まりになりましたら…」

注文はもう決まっている。
とにかく、頭がしゃきっとするものが飲みたい。
目の前に置かれたメニューの束の一番上に『コーヒー おかわり自由』と書かれたドリンクメニューがあったので、
それを指さしながらウェイターに注文した。

「コーヒー」

「かしこまりました。セルフサービスになっておりますので、あちらのドリンクコーナーからご自由にお飲みください」

うだつの上がらないウェイターはそう言って下がった。
この店には、どうやら店員はこの男しかいないらしい。
セルフサービスのコーヒーを注文したのは正解だったかもしれない。
男には、ハンバーグを注文したら真っ黒に焦げたホットドッグを出されそうな、そんな危うさがあった。


3杯目のコーヒーを飲んでいる途中、先ほどのうだつの上がらないウェイターが無表情で近づいて来た。

「ラストオーダーになりますが、よろしいですか?」

「まだ 4時よ。この店は夕方に閉めるの?」

「失礼しました」

そう言って、ウェイターは下がった。
なんてうだつの上がらない男だ。
いくら田舎町といえど、どこの世界に夕方で閉店するファミリーレストランがあるというのだ。
私は幾許かの怒りを覚えたが、まだカフェインが足りなかったのでぐっとこらえてコーヒーのおかわりを注ぎに向かった。



12杯目のコーヒーを飲み干し、ふと窓の外を見ると、景色はすっかり暗くなっていた。
そういえば、ずいぶん前から店内の話し声も聞こえない。
また、さっきのウェイターが近付いて来る。

「ラストオーダーになりますが、よろしいですか?」

「そうね。じゃあ、私の最後のお願い、聞いてくれる?」

店内には、もう誰もいない。
ウェイターは不気味な笑いを浮かべ、じっとこちらを見つめている。
私はこの日初めての水を飲み干し、最後のオーダーをした。


「今すぐ消えて。二度と私の前に現れるな、このクソ野郎」
 
2017/05/28(日) 20:39 [001] PERMALINK COM(0)
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