私達にはもう、何も話すことがなかった。
私は何のためにこんな暑い日に、こんな遠いところまで来たのだろう。
こんなひどい日になるなら来なければよかった。
今日の洋服はお気に入りの、薔薇と水玉のリボン模様のワンピースだったのに。


うつむいて黙っていると、彼が困ったように頭を掻いた。

「泣かないで」

「私は泣いてないわ」

本当に、私は泣いてなどいなかった。
だが、確かにどこかから泣き声が聞こえる。

「あっ」

彼が私の洋服を指さしたのでつられて見る。
何ということだろう。
いつの間にか水玉模様が雨粒のように浮き出て、ぽたぽたと零れ落ちていた。
ワンピースが泣いていたのだ。

私達が驚いていると、今度はスカートの裾がうごめきだした。
そしてワンピースにプリントされた薔薇の絵から茨がニョキニョキと飛び出して、あっという間に彼を締め上げた。


しくしくと涙を流し続ける水玉と、ニョキニョキと伸び続ける茨に為す術が無いまま、
私は「たすけてくれ」と泣いている彼を、ただ呆然と眺めていた。
 
2017/06/01(木) 20:37 [001] PERMALINK COM(0) TB(0)