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深夜、私達は小さなカフェで待ち合わせをした。
この街には夜遅くまで開いている店が何軒かある。
その中でも彼が特別気に入っていたのが、外国の小説に現れる隠れ家のようなこの店だった。

店に入ると、先に着いていた彼が静かに手を上げた。
店員にミルクティーを注文してから、私は彼の正面に座った。
テーブルにはガラス製のポットと陶磁器のようなカップが置いてあり、
透明なポットの中で紫色の花がゆらゆらと揺れていた。

「相変わらず、変なお茶を飲んでるのね」

彼は少し笑って、花の咲いたお茶をカップに注いだ。
店内は薄暗く、茉莉花のような匂いがする。
テーブルで揺れる花の茶と、かろうじて前に座った相手の顔が判別できるくらいの照明のせいで、
まるで異国に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚えた。


それぞれお茶を一杯ずつ飲んだ後、どちらからともなく立ち上がって店を出た。
それから二人は、影を縫うように夜の街を歩いた。
ぽつんぽつんと夜の店が開いている通りを、ちょうど一人分の歩幅の間隔を保って歩く私達は、
まるで一つずつ思い出を壊しながら歩いているようだった。

「こうして会うのも今日が最後かもね」
「そうだね」

やがて別れ道にたどり着いた。
私は右、彼は左に別れる。
私達はもう、お互いに振り返ることもしなかった。
多分もう二度と会うことはないだろうと分かっていながら。
 
2017/06/05(月) 23:43 [001] PERMALINK COM(0)
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