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久しぶりに何もない休日だった。
その日はとても天気のいい日で、僕たちは朝食のためにコーヒーメーカーをセットしたあと、
住んでいるアパートメントの屋上に洗濯物を干しに上がった。


老朽化した旧時代の高層アパートメントの屋上はコンクリートが剥き出しで、
あちこちに折れたアンテナが立てられたまま放置されている。
僕たちはその合間を縫って洗濯物を干さなければならない。

シーツのような大きなものは場所を取るので、梯子で物干し台に登って干す。
僕がアンテナ広場で小さなものをせっせと干していると、大きなシーツを干し終わった彼女が突然声を上げた。

「ねえ、私たち 100年前にもこうしていたと思わない?」

シーツの合間からちらちらと顔を覗かせて彼女がはしゃぐ。
コンクリート、ひしめくアンテナ、足下に広がる青空とビルの群れ。
きっと彼女にはかつて存在した、見たこともない城の屋上の景色が見えているのだろう。

僕は彼女の手から残りのシーツを取り上げて、もう片方の手を彼女に差し出した。

「さあ、そろそろ帰ろう。コーヒーが冷めないうちに朝食を食べなきゃね」

彼女はとびっきりの笑顔を見せて、梯子の上から飛び降りた。
 
2018/01/20(土) 03:57 [002] PERMALINK COM(0)
 
彼の部屋で、私はいつも眠っていた。

「早く起きて」

いつだって彼は同じ言葉で私を起こそうとした。
そして私がふたたび深い眠りにつくまで、それを耳元で繰り返すのだ。

「早く起きて」

私は目を閉じたまま、彼に向かって話しかけた。

「私が永い眠りにつく時も、あなたはそうやって私を起こし続けるんでしょうね」
「そうだね、きっとそうするよ。そして君はやっぱり起きないんだろうね」
「そうよ。あなたは私が眠っているところを、ずっとずっと見てるのよ」

彼が笑った気配がした。
私も笑って、また深い眠りに入ろうとした。
彼はふたたびあの言葉を繰り返し始めた。

「早く起きて」
「早く起きて」
「早く起きて」
「早く起きて」
「早く起きて」


……………


声が止んだ。

目を開けて部屋を見渡した私は、すぐに状況を理解した。
ああ、"失敗"したのだ。


部屋の真ん中にラジオカセットプレイヤーがぽつんと置かれている。
ONのボタンを押してもまったく動かない。
12年分の「早く起きて」が録音されたカセットは、やっと再生を終えたのだろう。


部屋には何も無かった。
ただ、窓に白いカーテンだけが掛けられている。
私はカーテンを引きちぎって体にまとい、床に横たわった。
それから私は、もう二度と起きなかった。
 
2018/01/15(月) 03:24 [003] PERMALINK COM(0)
 
「あけましておめでとう」

人のよさそうな笑みを浮かべて彼が話しかけてきた。
私は心底うんざりして、思わず舌打ちをした。
 
「どうしてそんな嫌そうな顔をするの」
「あなたは嬉しそうね」
「そりゃ、新年だもん。新しい一年が始まるんだよ、とてもめでたいじゃないか」
 
彼はまるでこの世の春が来たかのように満面に笑みを浮かべている。

「そうね、盆と正月がいっぺんに来たようなめでたさだわ」

彼が「そうだろう」と満足げに頷く。
私はもう一度舌打ちをして、彼を睨みつけた。

「本当にめでたいわ。あなたの頭がね」
 
2018/01/05(金) 01:53 [001] PERMALINK COM(0)
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