「ほら、写真を撮って。君のとっておきの素敵なカメラで」

彼が嬉しそうにはしゃいでウィンクする。
カウンターをちらりと見てフィルムの残り枚数を確認し、彼の笑顔にピントを合わせてシャッターを切った。
残り15枚。
私はカメラの蓋を開け、一気にフィルムを引き抜いた。

「そのカメラも持って行って。私の思い出と一緒に」
 
2017/12/10(日) 03:59 [001] PERMALINK COM(0) TB(0)
 
「写真を撮ってよ」

彼が私にカメラを向けながら言った。
そのカメラはとても小さいおもちゃのようなカメラで、数年前の誕生日に私がプレゼントしたものだ。

「あなたが撮るんじゃないの?」

私は少し苛立ちながら、向けられているレンズを手で遮った。

「僕は目に見えるものしか撮れないからね。
 君なら何だって撮れるだろう?たとえば僕たちの思い出とか」

そう言って彼はパチッ、とチープな音を立ててシャッターを切った。
今撮られた写真の不自然なほど鮮やかなコントラストを想像して私は目を閉じた。
過去ならどんなことでも簡単に思い描ける。
ひどく不自然な、クレヨンで塗りつぶしたような歪んだ思い出も。
 
2017/12/08(金) 22:55 [001] PERMALINK COM(0) TB(0)
 
日曜の午後。
教会にも行かずレジャーにも出かけなかった私達は、
アパートメントのバルコニーでお互いの髪を切り合っていた。

「君の髪はまるでドールみたいだね」

私の髪に櫛を通しながら、彼がうっとりと呟く。

「それはいい意味で?」
「もちろん、とびっきりいい意味で、さ」

ざくっ、と髪を切る音が耳をかすめる。
彼はとても器用だ。
私はあっという間にいつものジャパニーズ・ドール・スタイルにされてしまった。

「俺以外の男に髪を切らせないで」

顎のラインで切り揃えられた私の髪に頬ずりしながら彼が囁く。
その仕草があまりにも子供じみて見えたので、思わず笑ってしまった。

「だったら私より長生きしてよ、ダーリン。いつまでも私の髪を真っ直ぐにカットして」
 
2017/11/15(水) 03:32 [001] PERMALINK COM(0) TB(0)
 
彼がひどく切羽詰まった顔で突然謝り始めた。

「ごめん、俺は君にとてもひどいことをした」

謝って許されることじゃないけど、と彼は頭を垂れた。
私はそっと彼の肩に手を置いて、顔を上げるように促した。

「気にしてないわ。誰だって間違うことはあるもの」

彼はひどく驚いて大きく目を見開いた。
そして口を開きかけたまましばらく考え込んで、私の顔を見つめてこう言った。

「まるで君が別人のように感じるよ」

何かをごまかすように鼻の先を擦りながら彼が笑う。
私は黙って微笑み返した。
 
 
本当に。
いつだって、誰よりも鈍くて可哀想な人。
別人なのだと気付くまでに、あと何時間かかるのかしら。
2017/11/03(金) 02:47 [001] PERMALINK COM(0) TB(0)
 
週末のハンバーガー・ショップで、私達は数年ぶりに向かい合って食事をとっていた。
もっとも、オレンジジュースを一口啜るあいだ以外は一瞬たりとも止まない彼の話をBGMに、
冷めていくチーズバーガーをただ眺めることしかできない状況を”食事”と呼べればの話だけど。
 
一緒に頼んだジャガイモのチップスに油が回ってしなびてしまっても、まだ彼の話は続いていた。
彼は恍惚としながら昔の話を語っている。
ああ、昔話!
この世で一番、私がピクルスよりも嫌いなもの!

「ねえ」

黙っていれば永遠に続きそうな彼の話にうんざりしながら、
私は油まみれのチップスをつまんで口に放り込んだ。

「昔話ほど不毛なものってないと思う」
 
視線を上げて彼の反応をうかがった。
彼は黙ってコークのストローをくわえている。
私はもう一度、同じ言葉を繰り返した。
 
「昔話ほど不毛なものってないと思うわ、特にあなたみたいに話の長い人のは」
 
2017/10/05(木) 04:18 [001] PERMALINK COM(0) TB(0)