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そこにたどり着くまでには、長い時間と労力を要した。
辺りは静寂で包み込まれ、人ひとり通る気配がない。
最後に人と遭ったのはどのくらい前だったか。
もうすっかり真夜中だが、等間隔に設置された街灯が道を照らしているし、
たまに現れる高層タワービルにはいくつかの灯りが点いているので視界は意外に明るい。

しかし、目的地に近づくにつれて光の数は明らかに少なくなっていった。
先ほどまで30メートルおきに並んでいた街灯も、今では100メートルおきにまで減っていた。
ここで、道が途絶える。
手前に見える螺旋階段をエメラルドグリーンの街灯が照らしている。
どうやらあれを昇って先に進むらしい。

螺旋階段を昇り切ると、もうほとんど光はなかった。
持ってきていた小型のペンライトで足下を照らして先へ進む。
そこで自分が裸足で歩いていることに気付いた。
不思議と足は少しも痛くなかった。


突然、空気の流れが変わった気がしたので顔を上げると、そこが道の終わりだった。
目的地に着いたのだ。

道の最果てには、エメラルドグリーンに輝く夜の海と、銀色のパンプスが待っていた。
私はパンプスに足を入れて、サイズがぴったりであることを確かめた。
夜が明けるまでには、まだしばらく時間がかかるだろう。
やっとたどり着いた闇の向こうで、赤い航空障害灯がチカチカといつまでも点滅していた。
 
2018/02/24(土) 02:37 [001] PERMALINK COM(0)
 
「あけましておめでとう」

人のよさそうな笑みを浮かべて彼が話しかけてきた。
私は心底うんざりして、思わず舌打ちをした。
 
「どうしてそんな嫌そうな顔をするの」
「あなたは嬉しそうね」
「そりゃ、新年だもん。新しい一年が始まるんだよ、とてもめでたいじゃないか」
 
彼はまるでこの世の春が来たかのように満面に笑みを浮かべている。

「そうね、盆と正月がいっぺんに来たようなめでたさだわ」

彼が「そうだろう」と満足げに頷く。
私はもう一度舌打ちをして、彼を睨みつけた。

「本当にめでたいわ。あなたの頭がね」
 
2018/01/05(金) 01:53 [001] PERMALINK COM(0)
 
「ほら、写真を撮って。君のとっておきの素敵なカメラで」

彼が嬉しそうにはしゃいでウィンクする。
カウンターをちらりと見てフィルムの残り枚数を確認し、彼の笑顔にピントを合わせてシャッターを切った。
残り15枚。
私はカメラの蓋を開け、一気にフィルムを引き抜いた。

「そのカメラも持って行って。私の思い出と一緒に」
 
2017/12/10(日) 03:59 [001] PERMALINK COM(0)
 
「写真を撮ってよ」

彼が私にカメラを向けながら言った。
そのカメラはとても小さいおもちゃのようなカメラで、数年前の誕生日に私がプレゼントしたものだ。

「あなたが撮るんじゃないの?」

私は少し苛立ちながら、向けられているレンズを手で遮った。

「僕は目に見えるものしか撮れないからね。
 君なら何だって撮れるだろう?たとえば僕たちの思い出とか」

そう言って彼はパチッ、とチープな音を立ててシャッターを切った。
今撮られた写真の不自然なほど鮮やかなコントラストを想像して私は目を閉じた。
過去ならどんなことでも簡単に思い描ける。
ひどく不自然な、クレヨンで塗りつぶしたような歪んだ思い出も。
 
2017/12/08(金) 22:55 [001] PERMALINK COM(0)
 
日曜の午後。
教会にも行かずレジャーにも出かけなかった私達は、
アパートメントのバルコニーでお互いの髪を切り合っていた。

「君の髪はまるでドールみたいだね」

私の髪に櫛を通しながら、彼がうっとりと呟く。

「それはいい意味で?」
「もちろん、とびっきりいい意味で、さ」

ざくっ、と髪を切る音が耳をかすめる。
彼はとても器用だ。
私はあっという間にいつものジャパニーズ・ドール・スタイルにされてしまった。

「俺以外の男に髪を切らせないで」

顎のラインで切り揃えられた私の髪に頬ずりしながら彼が囁く。
その仕草があまりにも子供じみて見えたので、思わず笑ってしまった。

「だったら私より長生きしてよ、ダーリン。いつまでも私の髪を真っ直ぐにカットして」
 
2017/11/15(水) 03:32 [001] PERMALINK COM(0)
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