週末の夜、水色の眼鏡をかけた男と食事することになった。
待ち合わせた時刻が遅く、食事ができるような店はほとんど閉まっていたので、
私達は閉店間際のカフェで、パンケーキを食べることにした。
「この店は、前に女の子二人と来たんだ」
「そう」
「…」
男は黙りこくってしまった。
特に構わずパンケーキを切り分けていると、また男が喋り出した。
「その子達はモデルなんだけど、すごく可愛くてさ。
二人が両側から腕を組んでくるから、すごい目立っちゃって」
「だから何なの?」
「…」
男は再び黙った。
このパンケーキは冷凍かもしれない。
運ばれてくるのがやけに早かったし、添えられたアイスクリームが全く溶けない。
「その時は、林檎のパンケーキを食べたんだ。
女の子達は苺とチェリーのパンケーキを食べてて、一口ずつもらったけど凄く美味しかった」
「今日はモンブランしかなかったわ」
「…」
私は冷たいモンブランのパンケーキを食べ終えた。
男もいつの間にか食べ終わっていたらしい。
ナイフとフォークを置くと、ちょうど「閉店 5分前です」と店員が告げにきた。
そして私達は店を出て、特に言葉を交わすこともなく駅の方向に歩き始めた。
駅に着く直前、電話ボックスの前で男が急に立ち止まった。
「ねえ、キスしていい?」
「何で?」
「…」
男がまた黙った。
何も言わずにじっと見ていると、男は電話ボックスの中に入り、しくしくと泣きだした。
この男の名前を明日にはもう思い出せないだろうな、と思いながら、私は男を置いて再び歩き始めた。
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