スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

VR

 
ベッドの上で寝転がっていると、彼が小さな段ボール箱のようなものを持って来た。

「なに、それ」

彼はこちらを見ず、段ボール箱の中に自分のスマートフォンを入れて覗き込んだ。
そしてしばらくあれこれと箱を動かし、頷いて私の方を向いた。

「ほら、見てみて」

彼が段ボール箱を私に手渡す。
怪訝に思いながら箱を覗き込んで、思わず「わっ」と声を上げてしまった。

「すごい、どうなってるの」
「面白いでしょ」

満足げに彼が笑った。
段ボール箱の中で、緑の髪をしたヴァーチャルの女の子がこちらに手を振っていたのだ。

「この箱とスマートフォンがあれば、どこでも見られるんだ。そのまま振り返ってみて」

言われたとおりに、箱を覗き込んだまま振り返る。
すると視界がぐるっと回転し、今度は少女の後姿が見えた。

「すごい、後ろを向いた」
「それだけじゃないよ。足下も見えるし、空だって見上げられる」

段ボール箱を上に向ける。
本当だ。綺麗な星空が見える。

「今は、夜なのね?」
「そう。電波時計と連動してるから、時刻に合わせた風景になるんだ」

段ボール箱から顔を離し、箱を彼に返した。
小さく頭を振りかぶってベッドの横の窓を見ると、真っ暗な宙に青白い月が輝いていた。

「ねえ、あの月もヴァーチャル?」
「あれは本物だよ。そして、これも本物」

彼がミントガムを私の唇に放り込んだ。
私もボトルからガムを取り出し、同じように彼の口に放り込む。
それから私達は青白い月を見ながら、味がしなくなるまで同じミントガムを噛み続けた。
 
2017/06/07(水) 23:37 [001] PERMALINK COM(0)
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

COMMENT FORM

以下のフォームからコメントを投稿してください