ベッドの上で寝転がっていると、彼が小さな段ボール箱のようなものを持って来た。
「なに、それ」
彼はこちらを見ず、段ボール箱の中に自分のスマートフォンを入れて覗き込んだ。
そしてしばらくあれこれと箱を動かし、頷いて私の方を向いた。
「ほら、見てみて」
彼が段ボール箱を私に手渡す。
怪訝に思いながら箱を覗き込んで、思わず「わっ」と声を上げてしまった。
「すごい、どうなってるの」
「面白いでしょ」
満足げに彼が笑った。
段ボール箱の中で、緑の髪をしたヴァーチャルの女の子がこちらに手を振っていたのだ。
「この箱とスマートフォンがあれば、どこでも見られるんだ。そのまま振り返ってみて」
言われたとおりに、箱を覗き込んだまま振り返る。
すると視界がぐるっと回転し、今度は少女の後姿が見えた。
「すごい、後ろを向いた」
「それだけじゃないよ。足下も見えるし、空だって見上げられる」
段ボール箱を上に向ける。
本当だ。綺麗な星空が見える。
「今は、夜なのね?」
「そう。電波時計と連動してるから、時刻に合わせた風景になるんだ」
段ボール箱から顔を離し、箱を彼に返した。
小さく頭を振りかぶってベッドの横の窓を見ると、真っ暗な宙に青白い月が輝いていた。
「ねえ、あの月もヴァーチャル?」
「あれは本物だよ。そして、これも本物」
彼がミントガムを私の唇に放り込んだ。
私もボトルからガムを取り出し、同じように彼の口に放り込む。
それから私達は青白い月を見ながら、味がしなくなるまで同じミントガムを噛み続けた。
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