今日は黒髪のショートボブにした。
メイクはあくまでナチュラルに、ただし目元だけ少しワイルドに。
そして心の中で今日のテーマを呟いて、彼の待つ部屋のドアを開ける。
「今日は誰に変身したの?」
表情を崩さないように、口許だけ動かして答える。
「今日はレオンのマチルダなの」
「よく似合ってる」
彼は目を細めて、私の髪に触れた。
こんな作り物の髪に触って嬉しいのだろうかと思いながら彼の指先を横目で見ていると、
その指が羽根で撫でるように私の頬に触れた。
「どんな君も素敵だよ」
彼が私を抱きしめる。
まるで映画のワンシーンのような抱擁だ。
私は分かっている。
こうして演技をしないと、彼は私に触れることさえ出来ないのだということを。
「明日はシャーロットになって来るわ」
別れ際、彼の耳元でささやいた。
きっとどの"シャーロット"なのか分かっていない彼は、
作り笑いを浮かべたまま、最後にもう一度映画のようなキスをした。
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