眠らない街で待ち合わせた私達は、路地裏のカフェバーに入った。
店はカウンターで注文と会計を先に済ませるシステムで、
真夜中の0時を過ぎているのにケーキやマフィンなどのスイーツも充実していた。
彼が先にブラウニーとコーヒーを注文する。
私は洋梨のタルトと、飲み物は紅茶と一瞬迷ったけれど、何となくカプチーノにした。
席に着いて間もなく、ウェイターが注文した品を運んできた。
そしてウェイターが去った後、とても重大な秘密を打ち明けるかのように、声をひそめて彼が囁いた。
「実は俺、探偵なんだ」
彼の今日の出で立ちは、黒いセーターに黒いパンツ、白い手袋。
ベージュブラウンのインバネスコートに、チェック柄の鹿撃ち帽まで被っている。
ああ、こんなにも分かりやすい探偵が一体どこにいると言うのだ!
「やっぱり、そう思ってた」
彼はにやりと笑ってブラウニーにフォークを突き刺した。
私はといえば、英国の探偵小説からそのまま出て来たような名探偵を眺めながら、
「やっぱり紅茶にすればよかったかしら」と後悔していた。
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