昔、とても好きな人がいた。
彼に会った最後の日のことを、私はよく覚えていない。
笑って皆に手を振って帰って行ったことだけは覚えてる。
その時も、私とだけは目を合わせなかった。
当然だと思った。
私は、それだけのことをしてしまったのだから。
「もう二度と会えないね」
私の考えていることを見透かしているかのように彼が言う。
あの日から、彼はずっと私の隣にいる。
もちろんこれは幻だ。私以外の人間には見えない。
「あなたがいるからいいの」
彼が羽根のように軽い手で私の髪を撫でる。
私にしか見えない彼は、全て忘れて水に流したかのように私に優しい。
あの日終わるはずだった私の恋は、今もこうやって幽霊を相手に続いている。
私はいつまでも最終回を迎えられない。
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