私達は砂漠にいた。
目の前には古びた螺旋階段があり、満月に照らされて暗い夜空に永遠のように伸びている。
「どうする?」
ペットボトルの水を飲みながら彼が訊ねる。
夕方オアシスでペットボトルに汲んだ水が、二人のリュックにたくさん入っている。
しばらくは水の心配はいらないだろう。
「行くしかないわ」
彼が力強く頷く。
私達は覚悟を決めて階段を昇り始めた。
鉄筋の螺旋階段をひたすら昇り続ける。
いま、地上何メートルくらいだろう。
「知ってる?砂漠のことわざで、階段を昇り切った先にはコブラがいるんだって」
「何よそれ、聞いたことないわ」
「だろうね。今、俺が思い付いたんだから」
後ろからついて来ている彼がにやりと笑う。
その顔がやけに憎たらしかったので、蹴っ飛ばすわよ、と言ってかかとで軽く彼のおなかを小突いた。
「だけどこの階段、まるでコブラの腹の中みたいだと思わないかい」
そう言われて、足下を見る。
昇って来た階段は既に真っ暗な闇に飲まれ、ほとんど見えなくなっていた。
「コブラに飲まれそう」
彼がまたにやりと笑う。
私達は満月の明かりだけを頼りに、コブラの腹の中を延々と昇り続けた。
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