真夜中、突然彼から電話がかかってきた。
4コール目で電話に出て、もしもし、と応えたが返事がない。
間違ってコールしたのかと思って切ろうとした時、何か啜るような音が聞こえた。
耳を澄ましてよく聞いてみると、彼は泣いていた。
「どうしたの」
滅多に涙を見せない彼が泣いていることに驚いて尋ねた。
彼は喉を詰まらせながら、ゆっくり答えた。
「熱帯魚が死んだんだ。ずっと大事に育ててたのに」
ああ、熱帯魚。
私が死にかけても泣かなかったこの人は、熱帯魚が死んだ時に泣くのか。
私は妙に納得した。
やっぱりこの人は自分以外のことでは傷つかないのだ、と。
彼はずいぶん落ち着いたようだが、まだ静かに泣いていた。
いつだったか、泣きわめく私に向かって、
「僕は回線の強い端末を持っているんだ」
と言った彼の言葉を思い出しながら、
どんなに強い端末を持っていても、熱帯魚一匹も助けられないんじゃ意味ないわよね、と思った。
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