今日はこの夏一番の大きな祭りの日だった。
道はすべて通行止めになり、神輿が通る準備をしている。
会えても会えなくても、どちらでもよかった。
ただ顔を見て、遠くから悪態のひとつでもついてやれればそれで満足だった。
そんなことを考えながら、1時間ほど経った頃。
聞き覚えのある声がしたので振り向くと、ちょうど夏らしく浴衣を着た彼が通路奥にある階段から降りて来る最中だった。
しまった、と思いとっさに顔をそらしたが一瞬遅く、彼は私に気付いてそのまま近寄って来た。
「外に出ようか」
無視をするわけにもいかないので、しかたなく頷く。
そのまま裏口の扉を開け、私達は建物の外へ出た。
「今日、会えてよかった」
彼はお面を貼り付けたような笑顔で、見え透いた嘘をついた。
もう騙されるものか。
今日ここに来なければいけなくなったのも、ずっとこの笑顔に騙され続けてきたせいなのだ。
「嘘つき。今すごく面倒くさいって顔してる」
「そんな事思ってないよ」
「嘘よ。だって」
祭のお囃子がエコーのように重なって聴こえる。
私は片耳をふさいで、彼に問いかけた。
「だってあなた、もう私のこと愛してないじゃない」
彼は見たこともないほどすがすがしい笑顔で頷いた。
祭の行列が私達の横を通り過ぎて行く。
あの行列は、これから山の神様のところに帰るのだろうか。
なら、この人も一緒に連れて行ってくれればいいのに。
ふと、視界がぐらりと歪んだ。
お囃子のリズムに合わせて、彼の顔が変化していく。
彼はずっと笑ったままで、自分の顔が変わっていることに気付いていない。
ぐにゃぐにゃと彼の顔が歪み続ける。
そして最後には、彼の顔は狐面に変わってしまった。
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