私達にはもう、何も話すことがなかった。
私は何のためにこんな暑い日に、こんな遠いところまで来たのだろう。
こんなひどい日になるなら来なければよかった。
今日の洋服はお気に入りの、薔薇と水玉のリボン模様のワンピースだったのに。
うつむいて黙っていると、彼が困ったように頭を掻いた。
「泣かないで」
「私は泣いてないわ」
本当に、私は泣いてなどいなかった。
だが、確かにどこかから泣き声が聞こえる。
「あっ」
彼が私の洋服を指さしたのでつられて見る。
何ということだろう。
いつの間にか水玉模様が雨粒のように浮き出て、ぽたぽたと零れ落ちていた。
ワンピースが泣いていたのだ。
私達が驚いていると、今度はスカートの裾がうごめきだした。
そしてワンピースにプリントされた薔薇の絵から茨がニョキニョキと飛び出して、あっという間に彼を締め上げた。
しくしくと涙を流し続ける水玉と、ニョキニョキと伸び続ける茨に為す術が無いまま、
私は「たすけてくれ」と泣いている彼を、ただ呆然と眺めていた。
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