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日曜の午後。
教会にも行かずレジャーにも出かけなかった私達は、
アパートメントのバルコニーでお互いの髪を切り合っていた。

「君の髪はまるでドールみたいだね」

私の髪に櫛を通しながら、彼がうっとりと呟く。

「それはいい意味で?」
「もちろん、とびっきりいい意味で、さ」

ざくっ、と髪を切る音が耳をかすめる。
彼はとても器用だ。
私はあっという間にいつものジャパニーズ・ドール・スタイルにされてしまった。

「俺以外の男に髪を切らせないで」

顎のラインで切り揃えられた私の髪に頬ずりしながら彼が囁く。
その仕草があまりにも子供じみて見えたので、思わず笑ってしまった。

「だったら私より長生きしてよ、ダーリン。いつまでも私の髪を真っ直ぐにカットして」
 
2017/11/15(水) 03:32 [001] PERMALINK COM(0)
 
彼がひどく切羽詰まった顔で突然謝り始めた。

「ごめん、俺は君にとてもひどいことをした」

謝って許されることじゃないけど、と彼は頭を垂れた。
私はそっと彼の肩に手を置いて、顔を上げるように促した。

「気にしてないわ。誰だって間違うことはあるもの」

彼はひどく驚いて大きく目を見開いた。
そして口を開きかけたまましばらく考え込んで、私の顔を見つめてこう言った。

「まるで君が別人のように感じるよ」

何かをごまかすように鼻の先を擦りながら彼が笑う。
私は黙って微笑み返した。
 
 
本当に。
いつだって、誰よりも鈍くて可哀想な人。
別人なのだと気付くまでに、あと何時間かかるのかしら。
2017/11/03(金) 02:47 [001] PERMALINK COM(0)
 
週末のハンバーガー・ショップで、私達は数年ぶりに向かい合って食事をとっていた。
もっとも、オレンジジュースを一口啜るあいだ以外は一瞬たりとも止まない彼の話をBGMに、
冷めていくチーズバーガーをただ眺めることしかできない状況を”食事”と呼べればの話だけど。
 
一緒に頼んだジャガイモのチップスに油が回ってしなびてしまっても、まだ彼の話は続いていた。
彼は恍惚としながら昔の話を語っている。
ああ、昔話!
この世で一番、私がピクルスよりも嫌いなもの!

「ねえ」

黙っていれば永遠に続きそうな彼の話にうんざりしながら、
私は油まみれのチップスをつまんで口に放り込んだ。

「昔話ほど不毛なものってないと思う」
 
視線を上げて彼の反応をうかがった。
彼は黙ってコークのストローをくわえている。
私はもう一度、同じ言葉を繰り返した。
 
「昔話ほど不毛なものってないと思うわ、特にあなたみたいに話の長い人のは」
 
2017/10/05(木) 04:18 [001] PERMALINK COM(0)
 
雪が降った。
 
真夜中の国道であなたが微笑んだ瞬間、雪が降りだした。
それはまるであなたが魔法をかけたようだった。
 
雪はどんどん積もっていく。
銀色に変わっていく夜の真ん中で、あなたが微笑んでいる。
あまりにも美しすぎて、私は思わず目を閉じた。
 
 
雪が降り積もる音が弱くなった気がした。
そっと目を開ける。
目を開けても、もうあなたはいなかった。
ようやく気づいた。
これは雪ではなく、私の想いが、祈りが雪のように降り積もっているのだと。
 
 
 
snowed
 
【例】It snowed 雪が降った
 
【形】だまされた
 
 
2017/09/16(土) 02:31 [002] PERMALINK COM(0)
 
真夏のストリートを歩いていたら、サーフショップの前に彼が立っていた。
無視して通り過ぎようとすると、日焼けした腕が伸びてきて私の手をつかんだ。

「どうして会いに来てくれなかったの」

「行くわけないじゃない」

寝言を吐くのもいい加減にしろ、と思った。
しかしなお始末が悪いのは、彼がしっかりと起きているということだった。

「私が全部忘れて、水に流したとでも思ってるの?ウォータースライダーみたいに」

彼の視線がゆっくりと私の胸元に移動する。
そして彼は、うっとり目を閉じて頷いた。

「君のそういうところが本当に好きだよ」
 
2017/08/12(土) 04:15 [001] PERMALINK COM(0)
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