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左の髪を切り落とした。
もうすぐ胸まで届こうとしていた髪は、左側だけ不自然に短くなってしまった。

「これでいいの」

私は強く頷いて鋏を握り直す。
今日で終わりだ。
何もかも終わって、私はやっと楽になれるのだ。
 
 
片方だけ切り落とした髪が足下に散らばっている。
その上に落ちる自分の影が、声だけを上げて笑っていた。
 
「もうとっくに終わってるじゃない。髪が伸びるずっと前から」
 
2017/07/29(土) 02:51 [003] PERMALINK COM(0)
 
突然、電話が切れた。
少し待ってみると、すぐに折り返し彼から電話がかかってきた。

「ごめん、切れたね」
「電波塔の具合でも悪いのかしら」
「どうだろう。最近、携帯電話の調子があまりよくないんだ」
「まあ。回線の強い端末なのに?」

会話が途切れる。
青ざめた彼の顔を思い浮かべながら、再び話し始める。

「7月は色々なことを思い出すの」

受話器の向こうで、彼が困ったように笑う。
やはりこの人は駄目だ、と思った。
何も分かっちゃいない。
これは笑いごとではないのだ。

私は静かに怒り、恐らく気付いていない彼に尋ねた。

「私いま、どんな顔してると思う?」


私は返事を待たずに電話を切った。
それからしばらく待ったが、彼からの電話はもうかかってこなかった。
 
2017/07/07(金) 00:00 [001] PERMALINK COM(0)
 
真夜中、突然彼から電話がかかってきた。
4コール目で電話に出て、もしもし、と応えたが返事がない。
間違ってコールしたのかと思って切ろうとした時、何か啜るような音が聞こえた。
耳を澄ましてよく聞いてみると、彼は泣いていた。

「どうしたの」

滅多に涙を見せない彼が泣いていることに驚いて尋ねた。
彼は喉を詰まらせながら、ゆっくり答えた。

「熱帯魚が死んだんだ。ずっと大事に育ててたのに」

ああ、熱帯魚。
私が死にかけても泣かなかったこの人は、熱帯魚が死んだ時に泣くのか。
私は妙に納得した。
やっぱりこの人は自分以外のことでは傷つかないのだ、と。


彼はずいぶん落ち着いたようだが、まだ静かに泣いていた。
いつだったか、泣きわめく私に向かって、

「僕は回線の強い端末を持っているんだ」

と言った彼の言葉を思い出しながら、
どんなに強い端末を持っていても、熱帯魚一匹も助けられないんじゃ意味ないわよね、と思った。
 
2017/07/06(木) 03:02 [001] PERMALINK COM(0)
 

「今日で最後にしよう」と彼は言った。


「君はもう、僕にとって幽霊のようなものなんだ」

一点の曇りもない笑顔で彼が言う。
まるで悪びれることなく、私の気持ちなど考えようとすらせず。
自分の指先から体がどんどん凍っていくのが分かる。

「君の手はいつも冷たかったよ」

彼がそっと私の手を取った。
私と彼の温度差で、水蒸気が揺らめいている。
灼けた彼の肌を指でなぞって、私は目を閉じる。


沈むことを知らない、真夏の太陽のような人。
冷凍したいほど愛してた。
あなたが傷つくことなんてあるのかしら。
 
2017/07/03(月) 23:44 [001] PERMALINK COM(0)
 
6月最後の日。
私達は少し遅いティータイムを過ごしていた。
紅茶の時間を計る砂時計はもう落ち切っていて、
壁に掛けた無機質なデザインの時計が逆さに回っている。

「ねえ、あの時計、壊れてるよ」

彼が壁時計を指して言う。

「世界は7月にリセットされるの」
「リセット?」
「時間になれば分かるわ」

彼はとりあえず納得したようだった。
テーブルの上の砂時計も逆さまにして日付が変わるのを待つ。
7月1日まで、残り5分を切った。


「もうすぐだね」

彼が私の手を握る。
私はそれには答えず、時計の秒針を眺めていた。

カチッ。
時計の針が0時を指した。
7月1日。


その瞬間、彼は砂になって世界から消えた。
 
2017/07/01(土) 23:59 [001] PERMALINK COM(0)
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