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ウォータースライダー
真夏のストリートを歩いていたら、サーフショップの前に彼が立っていた。
無視して通り過ぎようとすると、日焼けした腕が伸びてきて私の手をつかんだ。
「どうして会いに来てくれなかったの」
「行くわけないじゃない」
寝言を吐くのもいい加減にしろ、と思った。
しかしなお始末が悪いのは、彼がしっかりと起きているということだった。
「私が全部忘れて、水に流したとでも思ってるの?ウォータースライダーみたいに」
彼の視線がゆっくりと私の胸元に移動する。
そして彼は、うっとり目を閉じて頷いた。
「君のそういうところが本当に好きだよ」
2017/08/12(土)
04:15
[001]
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ギャラクシー
「宇宙みたいでしょ」
水色のドリンクを飲みながらじっと私の指先を見つめる彼に話しかける。
私の爪は深い夜の色をしていて、その上に銀色の小さなラメがたくさん散りばめられていた。
「こないだは、夏の海だったね」
彼が言う。
私はしっかり頷く。
先月は、夏の海を爪に載せていた。
透きとおるように明るく薄いエメラルドブルー。
そして照りつけるオレンジ色の太陽。
私は、自然に起きることしか爪の上に載せない。
「雨が降らないかしら」
彼が怪訝な顔をして空を見上げる。
そういえばこの人は雨を嫌うのだったな、と思い出した。
だけどそれが何だと言うのだろう。
彼には、いつでも晴れた青空が広がる魔法の傘があるのに。
「雨が降ればいいのに」
彼がこちらに振り返る。
私は指先をぴんと伸ばし、彼に向かってひらひらと手を振った。
「もちろん、この爪の上で、ね」
2017/08/05(土)
18:28
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センチメンタル・ソーダ
お気に入りの下着の飾りレースが絡まって、ちぎった綿の破片のようになっていた。
私はため息をついて、その下着を普段着用のチェストの中に放り込んだ。
初めて一人旅をした日に着けていたのがこの下着だった。
ソーダキャンディみたいな水色にイチゴミルクのような水玉模様が散っていて、
左の胸元に大きめのリボン細工が施されている。
考えてみれば、今の私にはすこし子供っぽすぎるかもしれないデザインだった。
ちょうどいい頃合いだったのかもしれない。
このセンチメンタル・ソーダを初めて見せた相手にも、もう何年も会っていない。
そうして私はかつての"特別"に思いを馳せる。
"特別"が"特別"でなくなるのは悲しい。
しかたない。ずっとそのままではいられないのだ。
私はお気に入りの下着を入れていたボックスから、弾の入っていないモデルガンを取り出した。
そしてちぎれた綿菓子になってしまったセンチメンタルに向かって「バーン」と引金を引いた。
2017/08/03(木)
02:28
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flash
突然、電話が切れた。
少し待ってみると、すぐに折り返し彼から電話がかかってきた。
「ごめん、切れたね」
「電波塔の具合でも悪いのかしら」
「どうだろう。最近、携帯電話の調子があまりよくないんだ」
「まあ。回線の強い端末なのに?」
会話が途切れる。
青ざめた彼の顔を思い浮かべながら、再び話し始める。
「7月は色々なことを思い出すの」
受話器の向こうで、彼が困ったように笑う。
やはりこの人は駄目だ、と思った。
何も分かっちゃいない。
これは笑いごとではないのだ。
私は静かに怒り、恐らく気付いていない彼に尋ねた。
「私いま、どんな顔してると思う?」
私は返事を待たずに電話を切った。
それからしばらく待ったが、彼からの電話はもうかかってこなかった。
2017/07/07(金)
00:00
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COM(0)
Yorumi
真夜中、突然彼から電話がかかってきた。
4コール目で電話に出て、もしもし、と応えたが返事がない。
間違ってコールしたのかと思って切ろうとした時、何か啜るような音が聞こえた。
耳を澄ましてよく聞いてみると、彼は泣いていた。
「どうしたの」
滅多に涙を見せない彼が泣いていることに驚いて尋ねた。
彼は喉を詰まらせながら、ゆっくり答えた。
「熱帯魚が死んだんだ。ずっと大事に育ててたのに」
ああ、熱帯魚。
私が死にかけても泣かなかったこの人は、熱帯魚が死んだ時に泣くのか。
私は妙に納得した。
やっぱりこの人は自分以外のことでは傷つかないのだ、と。
彼はずいぶん落ち着いたようだが、まだ静かに泣いていた。
いつだったか、泣きわめく私に向かって、
「僕は回線の強い端末を持っているんだ」
と言った彼の言葉を思い出しながら、
どんなに強い端末を持っていても、熱帯魚一匹も助けられないんじゃ意味ないわよね、と思った。
2017/07/06(木)
03:02
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