「今日は一日、この街を使ってゲームをしよう」
黒のナイトが提案した。
白のナイトは少し考えて、ぱちんと指を鳴らした。
「チェスはどう?」
「クイーンとナイトだけでチェスはできないわ」
「だったら僕たちの勝ちでいいじゃない」
黒のナイトはどこまでも自由だ。
私達は思わず笑う。
「じゃあ次は、あの煉瓦のビルまで競争しましょう」
「いいね。しりとりで言葉の数だけ進めるルールを追加しよう」
「そんなルール初めて聞いたよ。でも楽しそう」
そして私達は、しりとりをしながら数十メートル先の煉瓦のビルを目指し始めた。
もうすぐゴールするという寸前。
突然、二人の動きがぴたりと止まった。
そして彼らはふらふらしながら、煉瓦造りの長い階段の真ん中に座り込んだ。
「とても眠い」
「僕も。もう目を開けていられない」
なんと二人のナイトは私を放って、そのまま眠りこけてしまった。
「信じられない」
思わず声に出して呟いた。
なんてあてにならないナイト達なのかしら。
私はすやすやと眠っている二人を置き去りにして、薔薇の匂いがする小道を一人で歩いて帰った。
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