「私、時々あなたに追いかけられて逃げる夢を見るの」
「へえ、どんな?」
「こないだは廃墟になったショッピングモールで、最上階まで追いかけられたわ。
その前は夜のメインストリート、映画館や病院の日もあったわね。でも今日が一番ひどかった」
彼は頬杖をついて続きを促す。
「あなた、全裸で追いかけて来たのよ。空港のゲートで。正気じゃないわ」
夢で見た光景の恐ろしさを思い出して体が震えた。
全裸の男が全力で自分を追いかけてくる恐怖!
しかも夢の中の彼は満面の笑みを浮かべていたのだ。
そう、ちょうど目の前の彼と同じように。
「そりゃ正気じゃないだろうとも」
「どうして?」
「君の頭の中はちょっとした小宇宙だからね。僕なんてちっぽけな存在は、簡単に狂ってしまう」
彼はまだ満面の笑みを浮かべている。
ああ、だめだ。
これは、この目の前の彼も。
「これも、夢の続きなのね」
私は静かに立ち上がり、彼に背を向けて全力で走り出した。
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