早朝のまだ店の開いていない通りを歩いていたら、ポケットからポン、と間抜けな音が聞こえた。
携帯電話を取り出して確認する。 間抜けな音が知らせたのは彼からのメールだった。
「こっちに来てるなら、連絡くれればよかったのに」
誰もいない路地裏を歩きながら片手でメールを打ちこむ。
画面を閉じる間もなく、すぐに新しいメールが届く。
「今、国道沿いのカフェで朝食を食べてるよ」
私もすぐに返事をする。
彼が今いると言ったカフェは、私もよく知っている店だ。
店内で焼き上げたパンとそれで作られたサンドウィッチ、そしてマスターがこだわって淹れるエスプレッソが絶品なのだ。
だけどここからはずいぶん遠い。
今から来いと言われても、それは不可能だろう。
羨ましい、と短いメールを返した。
すぐに返信が来る。
彼は今、サンドウィッチを片手にエスプレッソを舐めながらメールを送っているのだろう。
サンドウィッチの中身はたぶんトマトとレタス、それからベーコン。
なぜなら彼はシュリンプが大嫌いだから。
「会いたかったな」
微かにエスプレッソの香りが漂った気がした。
そうね、私も会いたかった。
銀色のオーブンから出したばかりの、こんがり香ばしい焼きたてのバゲットに。
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